2.副腎白質ジストロフィーの研究の現状と研究班の取組

E.ALDの神経心理学

ALDは遺伝性疾患であり、家系のどなたかにその診断がつくと、ご兄弟などが発症するのではないかと心配になるのは当然のことです。この病気では、血液生化学や遺伝子検査の異常の診断は新生児期でも可能です。しかし実際にこのお子さんが発症するかどうか、また発症するとしてどの時期に、どんなタイプになるのかは、発症するまで分かりません。

小児型ALDでは発症のごく早期に骨髄移植など幹細胞移植を行うことが有効であることがわかりました。また、発症しているかどうかの早期診断には神経心理学的検査が有用である、ということもアメリカのMoser博士、Shapiro博士らによって示されました。しかし、日本では十分に検討されていませんでした。

神経心理学的検査の実際

神経心理学的診断とは、言語・認知・行為などの症状を分析的に、また総合的に評価することによって脳の病変部位やその広がりを推定する診断法です。たとえば、後頭葉に病変があると視覚系の障害が、前頭葉に病変があると注意力や判断力に影響がおこります。側頭葉の病変の場合、言語理解の障害がおこりえます。実際には、全般的知能、言語機能、視覚認知、構成能力、記銘・記憶力、注意・実行機能などを評価できるように、さまざまな検査を組み合わせて行っているのです。

全般的知能はWechsler式知能検査で評価しますが、IQだけではなく、検査の各下位項目も詳しく検討します。言語機能を調べるために「失語症検査」を応用したり、視覚認知・視空間認知能力を調べるため「立方体透視図」を描いていただいたりもします(図1)。「Reyの複雑図形」の模写によって目と手の協調をみたり、「積み木課題」で構成能力をみたりします。全般的知能評価を補って身体図式の理解度をみるために「人物画」を描いて頂くこともあります。視覚記憶力や言語記憶・記銘力も課題を選んで実施します。注意・実行機能の評価を行って前頭葉機能をみます。

本研究班における研究の成果

それ以外の神経心理検査として私たちは、聴覚認知・聴空間認知をしらべるため聴力検査、両耳分離聴能検査、環境音認知検査、音像定位検査、また応用脳波検査である誘発電位や事象関連電位を用いた認知機能検査も実施しています(図2)。

神経心理学的検査を総合することで後頭部白質障害を主とするお子さんに作業関連記憶や注意機能など前頭葉機能障害がみつかることや、MRIに異常のない方に視覚性記憶障害が認められるなど、MRIでは分からない病変がみつかる場合も多いことが分かってきました。さらに、ALDでは視覚だけでなく聴覚認知障害の頻度も高いことがわかり、特別の教育的配慮をお願いすることもできました。また応用脳波検査では、通常の神経心理学的検査だけでは分からない認知機能のレベルの評価がおこなえることもわかってきています。

これらの神経心理学的検査の詳しい結果は、移植を担当する主治医の先生方にご報告し、患者さんやご家族にもご説明いただいて、診断治療の参考にしていただいています。 (加我牧子、国立精神・神経センター精神保健研究所知的障害部)
(共同研究者:稲垣真澄 白根聖子 堀口寿広 中村雅子 佐々木匡子 古島わかな)

文献

  1. Shapiro E, Krivit W, Lockman L et al. Long-term effect of bone marrow transplantation for childhood-onset cerebral X-linked adrenoleukodystrophy. Lancet 2000 Aug 26;356(9231):713-8.
  2. Shapiro EG, Lockman LA, Balthazor M, Krivit W. Neuropsychological outcomes of several storage diseases with and without bone marrow transplantation. J Inherit Metab Dis. 1995;18(4):413-29.
  3. 白根聖子, 稲垣真澄, 加我牧子:小児の中枢性聴覚障害. JOHNS18:1822-1824, 2002.
図1.前頭葉病変が主であった15歳男児の立方体透視図の描画 図2.応用脳波の検査風景