2.副腎白質ジストロフィーの研究の現状と研究班の取組

B.ALDと脂肪酸代謝異常

ALDにおける極長鎖脂肪酸の蓄積

ALDは大脳における広範囲の脱髄と副腎不全を特徴とする疾患ですが、血中や種々の組織(特に脳白質や副腎皮質)において、炭素数22以上の極長鎖脂肪酸が蓄積する特徴をもっています。炭素数24ならびに26の飽和脂肪酸が正常の約2〜10倍増加しており、生化学的診断に利用されています。これらの極長鎖脂肪酸は、脳白質では主としてコレステロールエステル、糖脂質、スフィンゴミエリン、副腎皮質ではコレステロールエステルとして存在しています。極長鎖脂肪酸は選択的にペルオキシソームでβ酸化されること、ALD患者線維芽細胞ではペルオキシソームに局在する極長鎖脂肪酸CoA合成酵素(VLCS)活性が低下していることより、当初ALDは、VLCS欠損症ではないかと推定されていました。しかしながらALDの病因遺伝子(ALD, 別名ABCD1)が同定され、遺伝子がコードするタンパク質(ALDP, 別名ABCD1)は、ATP結合カセット(ABC)タンパク質ファミリーに属するペルオキシソーム膜タンパク質であることが明らかになりました。ABCタンパク質はATP加水分解のエネルギーを利用し、生体膜を介して脂質、糖、ポリペプチドなどを輸送しています。よってALDは、ALDPの異常に基づくペルオキシソームでの極長鎖脂肪酸β酸化の低下が原因となり、蓄積した極長鎖脂肪酸が細胞障害を引き起こすことにより発症するのではないかと推定されています。

細胞内における極長鎖脂肪酸代謝

極長鎖脂肪酸は食餌から吸収されるとともに、炭素数16のパルミチン酸などからも生合成されます。細胞内の極長鎖脂肪酸はCoA化後、リン脂質、糖脂質、コレステロールエステルなどの合成に利用されるとともに、ペルオキシソームでβ酸化を受けて分解されます(図1)。ペルオキシソーム膜上のABCタンパク質ALDPは、極長鎖脂肪酸CoAや極長鎖脂肪酸を効率よくペルオキシソームに取込むために必要と考えられています。よってその欠損より、ペルオキシソームにおける極長鎖脂肪酸β酸化の低下が生じると推定されます。

極長鎖脂肪酸蓄積と病態の関連性

炭素鎖24、26の飽和極長鎖脂肪酸は、疎水性が高く直線上の構造をとるので、生体膜を構成するリン脂質や糖脂質に取込まれた場合、生体膜の流動性や膜構造に変化をもたらします。その結果、生体膜を介した種々のシグナル伝達に障害が生じると考えられています。一方、ALD脳病変部ではミエリンの崩壊とともに炎症性サイトカインであるTNFαなどの増加が報告されています。現在、極長鎖脂肪酸蓄積と脱髄の関係は不明ですが、ALDPの機能障害により極長鎖脂肪酸が蓄積すると、ミクログリアやアストロサイトが活性化され、TNFαなどの分泌が増加し、ミエリン形成に関与するオリゴデンドロサイトのアポトーシスをもたらす可能性が指摘されています。また極長鎖脂肪酸β酸化の低下は、脂質代謝と密接に関わる転写因子PPARδを低下させ、オリゴデンドロサイトの機能障害をもたらす可能性も指摘されています(図2)。

治療薬の可能性

Lorenzo's oil(オレイン酸:エルカ酸=4:1の単価不飽和トリアシルグリセロール)を用いた食餌療法により血中の極長鎖脂肪酸を低下させることができますが、治療効果は期待できないようです。最近コレステロール生合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素の阻害剤であるロバスタチンが、ALD患者の線維芽細胞や血漿中の極長鎖脂肪酸を低下させるとの報告がありました。しかしながら、治療薬としての有効性については否定的です。また尿素サイクル欠損症の患者に使われた4-フェニルブチレートやヒストン脱アセチル化酵素阻害薬トリコスタンAにALD患者線維芽細胞での極長鎖脂肪酸β酸化改善とその含量の低下が報告されました。私たちは、植物由来フラボノイド誘導体バイカレントリメチルエーテルが、ALD患者線維芽細胞における極長鎖脂肪酸代謝を改善し、細胞内の極長鎖脂肪酸含量を低下させることを見出しました。現在、ALDPノックアウトマウスでの脳内極長鎖脂肪酸含量低下などを指標に、治療薬の開発を進めています。
(今中常雄、富山大学大学院医学薬学研究部分子細胞機能学)

文献

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  3. Morita M, Takahashi I, Kanai M, Okafuji F, Iwashima M, Hayashi T, Watanabe S, Hamazaki T, Shimozawa N, Suzuki Y, Furuya H, Yamada T, Imanaka T (2005) Baicalein 5,6,7-trimethyl ether, a flavonoid derivative, stimulates fatty acid -oxidation in skin fibroblasts of X-linked adrenoleukodystrophy. FEBS Lett. 579, 409-414
  4. 守田雅志、今中常雄 (2005) 脂質代謝異常と神経変成疾患. 実験医学(増 刊):ダイナミックに新展開する脂質研究. 23, 1020-1026
図1.Metabolism of very long chain fatty acid (VLCFA) 図2.Dysfunction of ALDP and adrenoleukodystrophy